たとえば東京から横浜まで行くのに、途中の川崎でいったん降りると、
降りない場合にくらべて高くつきます。
言いかえると、「東京→川崎」「川崎→横浜」という2枚の乗車券を買うと、
「東京→横浜」という乗車券を1枚買うより高くつきます。
この事実は、ほとんどの人には半ば「常識」として受け入れられるはずです。
しかし、JRやごく一部の私鉄では、実はこの「常識」が通用しない場合があります。
すなわち、
途中で降りて乗車券を買い直したほうが安くつくことがあるのです。
この文書では、JRでこの現象を積極的に利用することを考えます。
本来1枚の乗車券で済むところをわざと2枚以上の乗車券に分けると、
「予定外のこと」が起きたときに不利益を被ることがあります。
たとえば、横浜から熱海へ行くのに、
「横浜→大船」「大船→熱海」と2枚の乗車券を買ったとします。
小田原まで乗ったところで強風のため先へ進めなくなり、
あきらめて横浜に戻る場合、
素直に「横浜→熱海」の乗車券を買っていれば横浜まで無料で送り返してもらえるところ、
「横浜→大船」「大船→熱海」と2枚に分かれていると、
「横浜→大船」はすでに全区間使用済み=JRとしては契約履行済みなので、
大船までしか送り返してもらえません。
JR以外ではこの現象はほとんど起きません。
運賃が距離に比例していないことが多いうえ、距離の区分が細かいからです。
ただ、まったく皆無というわけでもありません。
社によって、長距離を利用する場合、
あるいは特別な加算運賃を設定している場合には、まれに見かけます。
「分割するとなぜ安くなるのか」をかんたんに説明したあと、
実際に分割を実行する際に注意すべき点をまとめます。
「実際にどの駅で分割すると安くなるか」を調べる方法は思い切って省きました。
一部の市販ソフトに「分割駅を探す機能」がついていること、
きちんと調べるためには運賃を手で計算する必要があってめんどうなことがその理由です。
JRの運賃計算方法が知りたくなった人は時刻表を買ってみましょう。 短距離なら計算方法はけっこう単純で、なんとか手で計算できます。
まず、 「途中で降りると安くなる」という例が実際に存在することを見てください。
|←−−− 950円 −−→| |←460円→|←320円→| ●======●======● 新 八 藤 王 宿 子 野
460+320=780円ですから、いったん八王子で降りて乗車券を買い直すだけで、
運賃が170円も安くなります。
このような現象の起こる原因はいくつかあり、
複数の原因が同時にあてはまることも多いのですが、
だいたいは以下の4つで説明できます。
「新宿→藤野」の場合、 八王子で分割すると安くなるのは特定運賃によるところが大きいのですが、 都心部とそれ以外にまたがる乗車であること、 八王子・藤野間がぎりぎり20km以下であることも原因だといえます。
大まかにいえば、300km以下の運賃は距離に比例する。 したがって、長い乗車券を買っても1kmあたりの運賃が安くなる保証はない。
実際の運賃は距離に応じて階段状に上がっていき、 距離が多少ちがっても運賃が同額になることがある。 つまり、1kmあたりの運賃には区間ごとに多少の差がある。 運賃の上がる直前は得で、逆に、上がった直後は損。
15km乗車時の運賃はキロあたりの単価が特に安くなります。次点は20km乗車時。 話せば長くなるので理由は略しますが、手計算時には重要なポイントです。
都心部で完結する乗車券は安いので、 もし乗車区間が都心部で完結しない場合、 「都心部だけのきっぷ」と「その先のきっぷ」に分けると安くつくことがある。
私鉄との競合区間だけに乗車する場合、 運賃が特別に安いことがある(特定運賃)。そのため、 競合区間とそれ以外にまたがる場合、両者を分けて買うと安くつくことがある。
「ことがある」ばかりで歯切れが悪いのですが、 一般論として説明できるのはこのぐらいで、あとはケースバイケースです。
特定運賃がターゲットにしている並行路線は、 関東だと京王、京急、東急、京成、西武、営団。 関西だと阪神、阪急、京阪、近鉄、南海といったところです(ほかに中京で名鉄、 近鉄)。これらの鉄道と並行して走るJR線に乗るときは要チェック。
有効な分割駅が見つかったとして、それを正直に実行すると、 実際に分割する駅で降り、乗車券を買い直しながら進むことになります。 が、それではあまりに手間がかかりすぎます。
列車に乗ったまま乗車券の分割を実現する方法の一つは、
あらかじめ分割した乗車券を用意しておくことです。
駅では原則としてその駅からの乗車券しか買えませんが、
旅行会社では、任意の区間の乗車券が1カ月前から買えますので、
事前に乗車券を分割して準備することも可能です。
また最近では、「指定席を扱える自動券売機」でも、
その駅以外からの乗車券を買える場合があります。
念のために付け加えておきますが、区間が連続していれば、
複数の乗車券を併用することに問題はありません。
分割駅を通過する列車に乗ってもOKです。
乗車券の分割は不正ではないものの、異常ではあります。 このような買いかたを快く思わない人も少なからずいます。 分割購入だということが分かりにくいように買うのがベターです。
また、1枚目の乗車券が100kmを超えるものなら、
いわゆる「乗り越し」で対応可能です。
というのは、100kmを超える乗車券で乗り越しをすると、
請求されるのは「足りない区間の運賃」になるからです。
たとえば、東京から名古屋までの乗車券で大阪まで乗り越すと、
「東京→名古屋」と「東京→大阪」の差額を払うのではなく、
乗車券の足りない区間、つまり「名古屋→大阪」に対する運賃を支払います。
結果として「東京→名古屋」「名古屋→大阪」の2枚の乗車券を買ったのと同じ金額になります。
目的地までの乗車券がない状態は何かと不利ですので、 改札を入ったらすぐに車掌さんをつかまえ、精算すべきです。 ただし旅行開始前だと差額精算なので無意味です。
回数券の場合、旅行会社で任意の駅間のきっぷを買うという手法が使えません。
分割駅に実際に降りねばならないこともあるでしょう。
ただし、多人数で一気に回数券を使うのではなく、
一人で何往復もするのなら、以下のような手が考えられます。
(かりにA駅とB駅の間を、X駅で分割した回数券で乗車するとします。)
最初の1回だけ、X・B間で回数券を使えないので少し損をしますが、 軌道に乗ってしまえばあとは楽です。 ただし回数券を切らしてしまわないように注意。
みどりの窓口にある端末を操作すれば、 実は任意の区間の回数券を発行することができます。 人によっては、頼めば他駅からの回数券を発行してくれることがあるかもしれません。 しかし、「頼まれたら必ず売らなければならない」というものではないので、 過度な期待は禁物です。 それに、窓口で発行する回数券は定期券サイズなのでかさばります。
分割の効果が最も大きいのは定期券です。
ねだんが大きいので差額も大きくなりますし、
買うときに手間がかかるのも数カ月に一度だけです。
ただし、定期券の運賃計算方法は普通乗車券とはちがうため、
普通乗車券の分割結果がそのまま定期券に適用できるわけではないことに注意してください。
通学定期券は「自宅最寄り駅〜学校最寄り駅」のものしか買えないので、 意図的に分割して買うことはできません。
自動改札機を利用する場合、定期券を2枚以上持つことには注意が必要です。
1枚目の定期券で入場し、2枚目の定期券で出場すると、
2枚目には「入場した」という記録がないため、
不正乗車と誤解されることがあるからです。
会社によっては、
2枚の定期券を呈示すると「誤解されない処理」を施してくれる場合があるほか、
JR西日本のように、
磁気券であれば2枚の定期券を重ねて投入できるところもあります。
企業ぐるみで「分割定期券」を採用する例があるほどなので、
毎日のように自動改札機に誤解されるという事態は避けられると思いますが、
1枚で買える定期券をわざわざ2枚にして買っているのですから、
それ相応の不便さはあります。
定期券を分割することにより、使い勝手が落ちることもあります。
「Suica」「ICOCA」など、最近はICカード定期券が増えていますが、
ICカード定期券を2枚以上併用することはできないのがふつうです。
JR西日本では「2区間に分割した定期券」を1枚の ICOCA
に載せることが可能ですが、
JR東日本では「2枚合わせてT字形」にならない限り不可能で、
磁気券を使わざるを得ません。