自分で正確なねだんを調べたわけでもないのに、
「周遊券は安い」という聞きかじりの知識だけで購入するのはおすすめしません。
そもそも、現在、JRに「周遊券」は存在していません。
このページで扱う「周遊きっぷ」は、
1998年3月に廃止された「周遊券」の代替商品ですが、
発売額の算定方法は両者の間で大きく異なっていて、
多くの場合には現在の「周遊きっぷ」のほうが高くつきます。
単純な比較は難しいのですが、用法によっては数千円の差が出ます。
「周遊券は安い」という知識がいつの時点のものなのか、
それが「周遊券」なのか「周遊きっぷ」なのか、もう一度確認してみてください。
周遊きっぷとは、かんたんにいえば、
目的地付近のフリーきっぷに往復の乗車券をプラスしたものです。
より詳しくいえば、周遊きっぷとは、JR線の任意の駅から出発し、
全国各地の「周遊ゾーン」を1つだけ訪問し、
ふたたび出発駅に戻ってくるときに発売される割引乗車券で、
以下の3つの構成要素から成っています。
主な発売条件は、発駅と着駅が同じであること、 「発駅→ゾーン入口」「ゾーン出口→着駅」の距離がそれぞれ201km以上あること、 「ゆき券」「かえり券」がそれぞれ片道乗車券の発売できる経路であること、 といった程度で、行き帰りで経路を変えたり、 寄り道をしたりといったことも比較的自由にできます。
「ゆき券」「かえり券」のねだんは同区間の普通運賃の2割引で、
学割は同3割引です。これに「ゾーン券」のねだん(ゾーンごとに異なるが、
大人・学割とも同額)を加えたものが、全体の発売額になります。
ただし、「ゆき券」が600km以下で、経路に東海道新幹線を含む場合には、
前述の割引率が下がり、大人が5分引、学割が2割引となります。
「かえり券」も同様です。
たとえば「ゆき券」が「東京都区内→京都市内」(在来線経由)の場合、
同区間の大人の普通運賃が7980円ですから、
大人の「ゆき券」は7980×0.8=6380円、学割だと7980×0.7=5580円です。
「ゾーン券」の区間内では、
在来線の特急・急行の自由席に特急券・急行券なしで乗車できるほか、
一部のゾーンでは、新幹線の自由席にも特急券なしで乗車することができます。
「ゆき券」「かえり券」にはこのような効力はなく、
特急に乗るなら特急券が別に必要です。
特急の指定席に乗るときは、特急料金を一から支払う必要があります。 自由席と指定席の差額を払えばよいというわけではありません。
北海道・四国・九州の各ゾーンへは、
行きか帰りのいずれかに飛行機を利用することができます。
この場合は当然、JRの「ゆき券」「かえり券」のどちらか一方は不要です。
航空部分とJR部分を同時購入するのはもちろん、航空券だけを先に買い、
それを呈示して残りのJR部分を購入することもできます。
周遊きっぷに組み込んで利用できる航空会社には特に制限がありません。
また、普通運賃のほか、個人向けの各種割引運賃も利用できます。
周遊きっぷを購入するときには「航空券っぽいもの」が手元にないといけないので、
航空券を先に購入するときには注意が必要です。
極端な話、電話でチケットレス決済したら何も手元に残りません。航空会社、
JRの双方の端末がある旅行会社に泣きつけば何とかなるかもしれませんが。
以前は基準が厳しく、「航空券もどき」の呈示ではダメだったようですが、現在、
少なくとも首都圏では、本物の航空券でなくても、航空会社名、利用区間、搭乗日、
搭乗便名の4点が明示された「きっぷ状のもの」を呈示すればよいとされています。
そういったものを手元に残すような購入方法を選びましょう。
まず、安くて無難なのは「コンビニ決済」です。
航空会社の「チケットレス割引」を受けられるうえに、
区間や便名を明記した「きっぷ状のもの」が発行されます。
また、私は一度しか試したことがありませんが、Web
でチケットレス決済をし、そのときの画面を印刷したものを呈示してもOKでした。
ただし、これは発行箇所によるかもしれません。
話は変わって、今度は高速バスです。
JRハイウェイバス(昼行便)の東名高速線、
名神高速線の一部区間(東京−静岡・浜松・名古屋、静岡−名古屋、
名古屋−京都・大阪)は、
同区間の東海道本線・東海道新幹線に乗れる周遊きっぷを持っていれば、
そのまま(鉄道の普通列車のかわりに)乗車できます。
東京から関西方面(〔ドリーム号〕)の夜行便についても、
同様に周遊きっぷがあれば鉄道の代わりに乗車できますが、
この場合「JR夜行バス周遊利用券」というオプション券が別途必要です。
便や座席の指定はこの「周遊利用券」に対して受けることになります。
最近〔東海道昼特急大阪号〕〔中央ライナー〕など昼間の高速バスが増えましたが、
これらの路線は周遊きっぷでは利用できません。
昼行で利用できるのは、「東名ハイウェイバス」「名神ハイウェイバス」と名乗る、
座席指定制でない路線に限られます。
周遊きっぷの有効期間は、券片ごとに定められています。
つまり「ゆき券は○月×日から△日間、
ゾーン券は○月□日から…」といったふうになっていて、
全体で何日間という決めかたにはなっていません。
「ゆき券」「かえり券」の有効期間は同区間の普通乗車券と同一で、
距離によって変わります。
たとえば片道201〜400kmなら3日、片道401〜600kmなら4日です。
また、「ゾーン券」は通常は5日間有効と決まっています。
ただ、北海道ゾーンには5日間用のほかに10日間用というのがあります(もちろん、
5日間用より少し高額です)。
「ゆき券」「ゾーン券」「かえり券」それぞれに有効期間があるわけですが、
それぞれの有効期間は最低1日は重なるようにする必要があります。
言いかえれば、「ゆき券」が有効なうちに「ゾーン券」を、
「ゾーン券」が有効なうちに「かえり券」を使えるようにしろということです。
たとえば4月1日出発で、
「ゆき」「ゾーン」「かえり」の有効期間がそれぞれ4日間、5日間、
4日間だとすると、「ゆき券」は4月1日から4月4日まで有効なので、
「ゾーン券」の有効開始日もこれと同じく、4月1日から4月4日の間で選べます。
ここでたとえば「ゾーン券は4月2日から(5日間)有効」と決めると、
「かえり券」の有効開始日は4月2日から4月6日の間で選べます。
4月1〜4日の中でゾーン券の有効開始日を選べるなら、 4月4日から有効にするのが、全体の有効期間が長くなってお得…だと思います? そうすると、4月2日にゾーンに着いても、 4月4日になるまでゾーン券が使い始められず、ぼーっと待つしかありません。 長けりゃいいってもんでもないんです。
周遊きっぷの想定する「目的地近くで何度も乗り降りする」ような旅行なら、
特急の自由席が利用できることもあり、十分にもとをとることが可能でしょう。
一方、単純往復でもとをとるのは、大人なら場所によっては可能ですが、
学割では、ゾーン内で特急をたくさん利用しないと厳しいでしょう。
また、東海道新幹線利用時の割引率が低いので、
東海道新幹線を利用する場合には向きません。
片道601km以上ならいいのですが、こうなると往復割引の対象となる距離ですから、
単純往復に使うのは絶望的です。
目的地付近をぐるぐる回る観光旅行に周遊きっぷを使うのは当たり前の用法なので、
ここでは、単純往復に周遊きっぷを使ってもとのとれる例をいくつか見てみます。
ただし、ここに挙げた例はどれも「たまたま安くなった」というだけであり、
どこを往復する場合にも周遊きっぷが安上がりである、
ということを示しているわけではありません。
東京から山形まで、山形新幹線の普通車自由席で行くことを考えます。
ふつうに買うと、乗車券が往復11560円、これに特急料金8760円を加えて、
合計20320円です。
が、東京発の周遊きっぷ(福島・蔵王ゾーン)を買うと10880円。
福島から先が周遊ゾーンなので、特急料金は往復で7140円で済み、
合計18020円になります。実に2300円安くなります。
乗車券単体で比較しても周遊きっぷのほうが安いので、
指定席を利用したとしても周遊きっぷのほうが安くつきます。
ちなみに、学割で比較すると、自由席利用で通常18000円のところが17100円。
安いことは安いのですが、大人と比較するとそれほどでもありません。
また、指定席利用時にはかえって高くつきます。
以前は、 東北新幹線の沿線に「単純往復でもとをとれる目的地」がもっとあったのですが、 数年前に東北新幹線が周遊ゾーンから外されてしまい、 新幹線での単純往復には使いにくくなってしまいました。 山形新幹線は、福島から先が(「新幹線」という愛称ながら)制度上は在来線のため、 今も福島以北が周遊きっぷのゾーンに含まれています。
ちょっと変わったところで、バスを利用したうまい例を紹介しましょう。
東京から大阪まで東海道本線(在来線)、大阪から洲本まで、
明石海峡大橋経由の高速バス〔かけはし〕を利用して往復するとします。
ふつうに買うと、鉄道の乗車券が往復17020円、
バスの乗車券が往復4140円で、計21160円。
ところが東京都区内発の周遊きっぷを買うと、これが16460円で済みます。
通常の大阪往復より安いのに、淡路島まで行けてしまうのです。
しかも、ゾーン券の有効期間内は淡路島と本州を往復し放題。
参考までに、東京・大阪間を〔ドリーム大阪〕、
大阪・洲本間を〔かけはし〕で往復した場合、
通常ならそれぞれの往復割引運賃の合算で19330円ですが、周遊きっぷ利用は19300円。
ほとんど同額ですが、関西地区乗り放題の「おまけ」を考慮すれば、
周遊きっぷのほうがお得ですね。
ただ、これはかなり意図的に周遊きっぷのメリットを引き出した面があります。
何より、往復ともに在来線利用というのが現実的ではありません。
かりに、大阪まで新幹線で往復した場合を考えると
(特急券はこの場合関係ないので除外します)、周遊きっぷのほうは19860円。
一気に3000円以上も高くなってしまうのです。
淡路島をバスで往復して、やっともとがとれることになります。
また、本四海峡バスの便が利用できないとすると(注釈参照)、
本数が激減して実用的でないという問題もあります。
淡路島へ向かうJRバスは「西日本JRバス」と「本四海峡バス」の共同運行ですが、
「本来は」西日本JRバスの運行する便のみ利用可能であり、
「便宜上」本四海峡バスに乗ることもできる、という扱いになっているようです。
私はこれまでに数回「周遊きっぷ」で淡路島に行っていますが、
本四海峡バスに乗って、運転手さんに「乗れない」と言われたことは皆無です。
また、乗車前に指定券発行を受ける際にも、
ほとんどの窓口では本四便の指定券をすんなり発行してくれます。
指定券には「どちらの社が運行しているか」という記載がなく、
たいていの人は「これはJRバスだ」と信じて疑わないようです。
実際に乗った感触としては「バスに乗ってから断られることはない」ので、
指定券を入手できれば乗れてしまいそうですが、若干気になるところです。