首都圏と関西を結ぶツアーバスに実際に乗ってみた記録です。
今回選んだのはオリオンツアー主催「関西バス」の3列シート車で、
ツアーバスとしてはやや特殊なものではありますが、
他のツアーを利用する人にもある程度は参考になるでしょう。
なお、ツアーバスに関する一般的な情報は、別の文書「東京・大阪間の格安バスツアー」にまとめてあります。
年末の帰省にオリオンツアーの「関西バス」を使ってみよう、
と思い立ったのが2003年10月。
町中の旅行会社に出向くのはめんどうだし、電話もあまり気乗りしなかったので、Web
で予約が済むところを探してみた。
最初に見つかったのが、
東急観光のグループ会社「東急トラベルエンタテインメント」のサイト「BON VOYAGE」。
大手旅行会社である東急観光ならそこそこ安心して申し込めると思ったので、
ここで申し込むことにした。
実際に申し込んでみると、
このツアーに限っては支払方法が銀行振込のみ(クレジットカード使用不可)など、
いくつか予想外のできごとがあって面食らったものの、Web
と電子メールだけで予約は完了した。
通信販売は便利だが、商品の代金のほかに送金手数料や送料が必要なことも多く、
どこで買っても同じ商品の場合、
手数料や送料のぶんだけ実店舗より高くなってしまうことがある。
特に今回のツアーバスの場合、6000円という低価格が最大の売り物だから、
旅行代金のほかに何百円も手数料がかかるようだと利用価値が下がってしまう。
そんなわけで手数料には神経をとがらせていたのだが、
私に限っていえば、旅行代金以外のお金を払う必要はなかった。
最も心配したのがチケットや旅行条件書の送料だが、
支払いを終えたあとに届く電子メールが契約確認書面となり、
当日はこのメールを印刷して集合場所に持っていけばいいというので、
送料はかからなかった。
また、支払い手段が銀行振込だけなので、
一般的には振込手数料が必要となるところだが、
私は新生銀行の「パワーフレックス」口座を持っているので、Web
から手続きをすると振込手数料は無料で済んだ。
振込手数料を無料にできない人は、
交通費をかけずに行ける実店舗を探したほうがいいかもしれない。
予約や旅行代金支払いなどの手続きは10月半ばに済んだので、
あとは何をすることもなく過ごし、乗車当日、12月30日を迎えた。
以前に届いた電子メールを印刷して持ち、
集合場所に指定された東京駅八重洲口の「ヤンマーディーゼルビル」前へ。
JRで東京駅に着いた人なら、八重洲中央口の改札を出てそのまま直進、
横断歩道を3、4本渡ると着く。信号待ちの時間を入れても改札口から5分ほどで、
路線バスと比較して特に不便な場所ではない。
ただ、ツアーバスの乗り場はここまで便利なものばかりではないから注意が必要だ。
たとえば新宿だと、一般的な集合場所は都庁の大型駐車場だが、
ここは新宿駅から歩くと10分近くかかる。
集合時刻は23時10分となっていたので23時05分ごろに行ったのだが、 八重洲通りにはすでに数台のバスが停まっていた。 さらに、ヤンマービルの正面、 左折合流レーンと直進レーンにはさまれた部分にも数台が停車中。 合計で7、8台はいただろうか。
そして、ビルの前の歩道には、
何か事件でもあったのかと思うほどの人だかりができていた。
バスの台数を8台とすると定員は350名ほどになり、
23時30分発の「ミッドナイト便」は東京駅からしか乗れないはずだから(ただ、
実際には他のツアー客が TDR などから乗っている可能性はある)、
数百人単位の人がバスを待っていることになる。
看板類は特に見当たらなかったが、
これだけの人だかりができていれば不安になることはないだろう。
集合場所にはオリオンツアーの担当者らしき人が数名いたので、
この人をつかまえて、自分の名前を告げる。
すると、印刷してきた書類を見せるまでもなく、
「バスは50号車、赤と金色のラインの入ったバスです」という回答を受けた。
もちろん東京駅から50台のバスが出るわけではないのだろうが、
50号車というのはすごい。話を聞いていた限りでは70号車以上まであったようだ。
言われたとおりのバスに乗り込む。車体には「TORYU」という文字。
聞いたことのないバス会社だが、帰ってから調べてみると、
兵庫県加東郡滝野町にある「土江産業(とうりゅう観光)」のバスらしい。
また、となりに停車中の緑色のバスは、
同じ兵庫県の氷上郡氷上町にある「中兵庫観光開発」のもの。
いずれも所有するバスが10台程度という中小の会社で、
神戸からそれほど近くにあるわけでもない。
ツアーバスというのはこんな会社まで使って実現されているのか、
と感心する。
バスに乗り込むところで運転手さんに再度名前を告げると、
名前入りの座席表にチェックが入った。
座席位置のリクエストをしなかったので、
席がどのへんか不安だったのだが、結果は「10C」。
最後列の席だという。大きな荷物はここでトランクに入れることもできたが、
私はそれほど荷物がなかったのでパス。
さて、注目の「観光3列シート車」に乗り込む。
…おや、路線バスとまるっきり同じだ。
シートは1席ずつ離れた「独立3列シート」だし、
車両の右側中央部にはちゃんとトイレもついている。
後ろのほうへ歩いていくと、私の座る最後列だけは、
通路が不要なので4列シートになっていた。
通路をつぶしているとはいえ、4列だとさすがに隣席との間隔が狭く、
ハズレを引いたかと一瞬あせる。
が、あらためて座席表を見ると最後尾も3人がけとして描かれており、
実際には4席のうちの1席(10D)は空席のようす。
このあたりは「3列シートオプション」料金をとるだけあって律儀だ。
私は窓側の10D席に座り、
本来の居場所である10C席を荷物置き場として使うことにした。
席についてから座席の装備を確認してみると、
一般的な夜間高速バスとほぼ同じだった。
フットレスト、レッグレストともにあるし、リクライニング角度もそこそこ。
最後列は車体後部につっかえるので最大斜度までは倒せないのだが、
それでも不満のない角度にはなった。
ただ、致命的でないとはいえ、座席まわりや内装はだいぶくたびれていた。
マルチステレオは操作部の塗装がはげていて、音が出ていたかどうかも怪しい。
読書灯にしても、あとで使ってみたら点灯しなかった。
少なくとも「関西バス」のために新造した車両でないことは明らかだ。
ここからは想像だが、この車両、
どこかのバス会社で路線バスとして走っていたのを、
最近になって中古で購入したものではなかろうか。
ちょっと調べてみると、観光バス業界では(路線、
観光を問わず)中古車の購入はけっこう行われているようだから、
そうであっても不思議ではない。
安値の「高速バスもどき」が中古車を利用して実現されているとすれば、
経済的にも納得のいく話だ。
ところで、もし何かの都合で3列シート車が来なかったら、
ツアー参加者への補償はどうなるのだろうか?
各旅行会社の約款のベースである「標準旅行業約款」によると、
主催旅行の実際の内容が契約書面と異なった場合、
旅行代金の一定割合にあたる額以上の「変更補償金」が支払われることになっている。
オリオンツアーの主催旅行約款にもこの制度がある。
ただ、オリオンツアー(をはじめとする一般的な旅行会社)の場合、
という条件になっているため、
今回の旅行では約款にもとづく変更補償金は支払われない。
旅行条件書を読んだ限りではその他のケアもないようだから、
かりに3列シートの車両が来なくても、
旅行代金の減額などの措置は約款上では何ら保証されていないと思われる。
ただ、約款はあくまで最低限のサービス内容を記したものと考えられるから、
実際には「4列シート車利用」と「3列シート車利用」の差額が払い戻されたり、
4列シート車の1人2座席利用で対応されたりするのかもしれない。
心情的にはそうであってほしいところだ。
最後列に座って待っていると席が徐々に埋まってきた。
空席は私のとなりにしか残らなかったのではないかと思う。
路線バスではないのだから、
空席が全部埋まったら発車してしまってもいいはずだが、
出発予定時刻の23時30分を過ぎてもバスは動かない。
となりに停まった中兵庫観光開発の4列シート車も同様だ。いくら深夜とはいえ、
東京駅前の道路を長時間にわたり占拠するのはどうかと思う。
なぜ動かないのかと少々いらいらしていると、
23時45分ごろ、地上にいた係員が乗ってきて、
何名かの乗客の名前を呼び、チケットを配り始めた。
バスと宿泊のセットプランを利用する人に宿泊券を配っていたようだ。
これが終わるとすぐドアが閉まり、バスはようやく動き出した。時刻は23時52分。
動き出すとようやく肉声の放送が入った。2人乗務とのこと。
途中休憩時間を多くとって1人乗務で対応するJRバスの格安便とは対照的だ。
また、「車内禁煙」「構造上、トイレは小のみ」との案内があったが、
「小のみ可」のトイレとはどんなものだろう。実物は結局見なかったが、
清掃の手間を考えて「できれば小のみにしてください」ということなのだろうか。
バスのトイレの「後処理」がどういうふうになっているか知らないのだが、
おそらく小規模の会社にはやっかいな代物だろうと思う。
バスは東京駅を出ると馬場先門、日比谷公園、
官庁街を経由して霞ヶ関から首都高速へ。
その後は3号線を経て東名高速に乗るという、
極めてオーソドックスな経路で関西を目指す。
最後列はエンジン音がかなり響き、気になる人には気になるかもしれない。
私は厚木あたりで寝ることにした。
途中休憩は2カ所あるとのことだったが、めんどうなのでどちらも降りずに済ませた。
放送で目が覚めると5時55分。
2回目の休憩場所である草津PAを出るところだった。
京都まではあと20km程度、予定到着時刻の6時30分には間に合いそうだ。
それからまた眠ってしまったが、京都到着時に時計を見ると6時25分。
まわりに乗っていた人はだれも降りなかったようだ。
京都で降りる人は意外に少ないのだろうか。
さらにまた眠りについたので、途中の経路はほとんど記憶にないのだが、
7時15分ごろ大阪駅北口に到着。
予定では7時30分着となっているから、ここまではすこぶる順調だ。
最も乗降客の多そうな大阪でもまわりの人はだれも降りず、
どうしてみんな神戸を目指すのか?と不思議に思ったが、
よく見ると前方の席は空っぽになっていた。
どうやら京都、大阪で降りる人を前方に配置したらしい。
それでも、バス全体の5分の2ぐらいの人は神戸まで乗るようだ。
ここでようやく起きる気になったので、
カーテンを開けて神戸までの車窓を見ることにする。
バスは梅田ランプから早々と阪神高速に乗り、
都心をぐるりと回ってから神戸線に入った。
時刻はだいたい7時30分、今日は12月31日だから渋滞はないようだが、
阪神高速神戸線といえば渋滞の名所のようなところだから、
平日の朝ならけっこう時間を食いそうだ。
何事もなく生田川ランプで阪神高速を出て、三宮駅のやや東側、
「中央区役所前」バス停に到着。
三宮駅までは歩いて5分程度で、それほど不便な場所という気はしない。
ここで全員が下車、ツアーバスの旅が終わる。
時刻は7時55分、予定より35分早い到着だ。
降りぎわに初めて気付いたが、このバス、
前面の方向幕に「オリオンツアー」という表示を出していた。
おそらくこの車両はほとんど「関西バス」専用なのだろう。
最後に、今回利用したツアーバスと路線バスを比較してみる。 この論評はあくまで、 今回利用した「オリオンツアーの3列シート車」に限ったものなので注意してほしい。
言うまでもないことだが、路線バスと比較して圧倒的に安い。 路線バスならだいたい8500円のところ、ツアーバスは6000円だった。 学割や往復割引など、各種割引制度を利用できない人にとっては差が顕著だ。
今回乗った3列シート車は、標準的な夜行の路線バスと同等の快適さだった。 車両が古いのを気にする人もいるだろうが、 最近の新車にはコストダウンのため各種装備を削ったものも多く、 それらと比較すると、むしろ古いツアーバスのほうが快適なこともあるだろう。 (ただ「トイレが小のみ」はどうかと思うが…)
今回、混み合う時期である12月30日の予約を、
10月半ばに早々と入れることができた。
路線バスはたいてい乗車1カ月前に予約受付開始となるが、ツアーバスの場合、
「10月1日から3月31日まで」のように数カ月単位の受付を一気に始めることが多いので、
出発日によっては3カ月前、4カ月前でも予約可能なことがある。
予定が早く決まった人には有利だ。
ただ逆に、10月や4月など、ツアー設定期間の初めのほうに乗車する場合には、
なかなか情報が入ってこなくていらいらするかもしれない。
今回はリクエストすらしなかったが、好みの座席を指定することは難しそうだ。
探してみると座席指定不可と明記してある代理店の Web
サイトが見つかったので(注:2004年11月現在、
このページは見つからない)、
これを信じるなら指定は不可能ということになる。
また前述のとおり、座席は到着地別に割り振られていたようで、
選べるとしても窓側・通路側程度だろうと思う。
ただ、ツアーバスでは乗客の名前がすべて判明しているので、
男女の配列には配慮があるのかもしれない(私のとなり2人はいずれも男性だった)。
座席位置よりも隣人を気にする人には、
このシステムが逆にメリットと映ることもあるだろう。
出発時刻は23時30分と案内されていたが、
実際には23時50分過ぎまで車内で出発を待つことになった。
バスに乗ってしまえば、それが動いていようといまいと同じことではあるが、
出発が遅れれば到着も遅れることになる。
路線バスも到着時刻はあてにならないものだが、
ツアーバスではさらに大きな余裕を見込んでおく必要があるだろう。