最長片道きっぷの経路を求める
[付録1-4] 2002年12月版(特例編)

このページのあらまし

 本編であまり詳しくふれなかった「運賃計算の特例」への対応について、 自分用のメモも兼ねて、少し詳しく説明しています。


目次


特例処理の基本スタンス

 まず、最初に「運賃計算の特例にどう対応するか」の基本スタンスを一言でいうと、 「適用されることが分かってから考えよう」ということになります。

 JRの運賃は、実際に乗車する経路の距離にもとづいて計算するのが大原則です。 そして、この原則に当てはまらない「運賃計算の特例」がいくつかあり、 最長片道きっぷにも影響を及ぼしているわけですが、 それらはいずれも「遠回りするときも近道で運賃を計算しろ」というもので、 「近道を通っても遠回りの経路で運賃を計算しろ」という特例はありません
 これはすなわち「特例の適用を受けても、 最長片道きっぷがさらに長くなることはない」ということですから、 特例を考慮しないで解いても、 真の最長ルートを見過ごすことはないわけです。したがって、冒頭のように 「出てきた最長ルートが特例の適用を受けると分かった時点で対応を考えよう」という、 一見すると場当たり的な方針でもよいことになります。


タイプL、3種の特例

 今回、 本州内において運賃計算の特例をまったく考慮せずに最長経路を計算してみると、 「特例のおかげで距離を短縮しなければならない」という事例が3つ出てきました。 これらにどう対処したか、以下にまとめておきます。

 念のため書いておきますが、以下で追加する「各特例に対応した制約式」は、 いずれもタイプLのみを想定したものになっています。 タイプPに関しては [付録1-3] のとおり、長くとも11339.1km以下であることが判明しているので、 以下で何だかんだと制約式を追加しても、 タイプLの最長がこの値を下回らない限りは、 タイプLだけ考えていればいいわけです。


大阪環状線内を最短経路で
(旅客規則70条)

規則のあらまし

 大阪環状線+JR東西線+東海道本線大阪・尼崎間(図 A4 の太線区間、 以下単に「太線区間」)を通過する場合の運賃は、 旅客営業規則第70条により、 同区間内を最短経路で計算しなければなりません。 ただし、太線区間を2度以上通過する場合には実際の乗車経路で計算できます。

図A4図 A4 旅客規則70条の、 大阪に関連する「太線区間」の図です。○は終端駅を表します。

出てきた経路は…

 この特例を考慮せずにタイプLの最長経路を求めると、 得られた経路は太線区間を1度だけ通過するもので、 しかもこの特例に見事に引っかかっていました。
 具体的には、 得られた経路は「…→天王寺→西九条→大阪→京橋→…」というものでした。 旅客規則70条の適用を受けるので、このように乗車する場合の運賃計算経路は、 天王寺・京橋間が最短経路になります(図 A5)。 これにより、運賃計算経路は実乗経路より8.7km短くなります。

図A5図 A5 旅客規則70条を考慮しないで最長経路を求めると、 青線のような経路が得られました。 が、このような経路で旅行する場合は、 旅客規則70条により赤線の経路で運賃を計算させられます。

 ということは、8.7km短くなっても依然としてこの経路が全国で最長なのかどうか、 チェックする必要が出てきます。

こんな制約式で対応

 結論から言えば、「天王寺・今宮」「今宮・西九条」「西九条・大阪」 「大阪・京橋」の4本の枝のうち、 同時に使えるのは3本以下という制約式を追加して解き直し、 得られた解を真の「全国第1位」として採用することにしました。
 かりにこの4本の枝をすべて利用すると、 太線区間には未通過の接続駅が1つ(尼崎)しか残らないので、 タイプLの経路では「太線区間2度通過」があり得ません。 したがって太線区間は必ず1度通過となり、必ず特例の適用を受け、 必ず強制的に「天王寺→京橋」という最短経路で計算させられます。 つまり、4本の枝すべてを運賃計算経路に含むことはできないのです。
 ダメ押しで書いておきますが、ここで追加する制約式は、図 A5 の青線のような経路が出てきたときにそれを赤線の形に変えるだけで、 ほかには何の影響も与えません。

 この制約式を入れてあらためて解き直した結果は、 当初の結果のうち太線区間を最短経路に置き換えただけのものでした。 つまり、旅客規則70条があってもなくても、 最長経路は本質的に同じものになるということです。


岩国・櫛ヶ浜間を岩徳線経由で
(旅客規則69条1項4号)

 似たような特例として、岩国・櫛ヶ浜間を通過する場合には、 旅客営業規則第69条第1項第4号により、 距離の短い岩徳線経由で計算しなければならない、というのがあります(図 A6)。

図A6図 A6  図の太線区間を通過する場合には最短経路で運賃を計算します。

 こちらはもっと単純で、 山陽本線岩国・櫛ヶ浜間を通過してはならないという制約式を入れて解き直しました。
 岩国・櫛ヶ浜間には接続駅がないので、 タイプLの最長経路は岩国・櫛ヶ浜間を「通過する」か「かすりもしない」か、 二者択一を迫られます。また、 タイプLなので岩徳線と山陽本線の双方を使うことはできず、 「使うとすればどちらか一方」です。 そして、「山陽本線を通過する」ことを選択すると、 規則69条により岩徳線経由で運賃を計算されてしまいます。 すなわち、タイプLでは、 山陽本線経由で運賃計算をすることがあり得ないのです。
 この区間を岩徳線経由に限定しても、出てきた最長経路は本質的に同じで、 岩国・櫛ヶ浜間が岩徳線経由になっただけのものでした。

 「新幹線はどうした?」と思ったあなたは重度のマニアだと思いますが :-)、新幹線については規則69条3項の記述からして 「新幹線の運賃計算キロそのものを岩徳線経由と同一にする」 ことが適当だと思われたため、そのように対処してあります。


新下関・小倉間の幹在重複乗車
(旅客規則68条4項3号)

 最後に、一番頭を悩ませたのがこれ。 出てきた最長経路は「…→幡生→新下関−(新幹線)→小倉→…」 というものだったのですが、幡生方面から来て、 新下関で在来線と新幹線を「相互に直接」乗り継いで小倉方面に行く場合には、 旅客営業規則第68条第4項第3号により新下関で運賃計算を打ち切らねばならない、 すなわち1枚の片道きっぷにならないのです(図 A7)。

図A7図 A7 赤線のような乗りかたをすると、 新下関で運賃計算をいったんやめなければなりません。

 これに対処するために追加した制約式は、 「幡生・新下関」と「新下関・小倉」の同時使用は不可というものです。

この制約式でだいじょうぶ?

 一見すると、上記の制約式には何の問題もなさそうですが、 これでだいじょうぶ、と思えるまでにはしばし考えてしまいました。
 主に心配だったのは「この規則のせいで、 新下関を発着駅とする経路が最長になる可能性はないだろうか?」ということでした。 一般に、運賃計算を打ち切るきっかけとしては「折り返す」「同じ駅を2度通る」 という2つがあり、このことから最長片道きっぷの発着駅を終端駅や接続駅、 接続駅の隣接駅に限定してきたわけですが、 ここにもう1つ、規則68条4項3号という「打ち切るきっかけ」が存在するのです。 「新下関より先に行きたかったんだけど、 規則68条4項3号のおかげで打ち切られてしまった、 それでも他の経路には勝っているので○○駅発新下関着が最長経路です」、 そんなことがないだろうか?と。
 考えたすえ、以下のような説明で「だいじょうぶだ」と納得できました。



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最終更新: 2003年 1月 5日
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