たぶん、最初で最後のゲームメモ。
2003年。それは「ファミコン」ことファミリーコンピュータが20周年を迎え、
同時に製造中止となった年である。
それを記念して、東京都写真美術館では「レベルX」なる展覧会も催され、
友人に誘われて行ってみたら、特にゲーム好きでない私ですら、
小学生のころのわくわくした気持ちを取り戻すことができた。
ファミコンに未だ深い愛着を持っている私の弟も、
「レベルX」のパンフレットでさらに触発されたのか、
年末に帰省してみると、弟の部屋では常にファミコンが稼働していた。
ファミコンのカセットは星の数ほどあるが、 1984年に発売された「F1レース」はファミコン史を語る上で外せないソフトだろう。 車の操作をするゲームはゲームセンターでも定番のジャンルで、 ついついハマってコインを大量に投下した人も多いことと思うが、 それをカセット1本で思う存分楽しめるというこのソフトは画期的で、 「これでファミコンの地位は不動のものになる」と子供心に思ったものである。
さて、ようやく本題だが、 そのF1レースには「F1ターボ」という有名な裏技があった。 概略は以下のとおりである。
この技の存在はすぐに小学生の間に広まったが、 かんじんの「どうにかして416km/hを出す」という部分でつまづき、 自分の目でこれを見ることはついになかった。…2004年が明けるまでは。
2004年元旦。「ゆく年くる年」を見終わり、
兄弟で昔話をしているうちに、なぜかF1ターボの話になった。
弟は私より格段にゲームの腕が立つ(というより弟が人並みで私が全然ダメ)のだが、
その弟もF1ターボは見たことがないという。
20年の歳月を経て数々のゲームを経験し、
コントロール技術や「やり込み精神」を磨いてきた今の弟なら、
F1ターボは必ず実現できる。そう確信した私は、弟に実行を命じた。
いや、そんなにエラソーなこっちゃないけど。
まず、416km/hが出せるとしたらどのコースだろうか?と考えてみる。
おそらく直線部分が一番長いのは3コースだが、
単純なオーバルの1コースも直線部分は長い。
とある Web
サイトに「出せるなら3コースしかない」といったことが書いてあったので、
まずは3コースで何度か試してみたのだが、これがなかなか難しい。
いったんはあきらめ、気分を変えて1コースで再挑戦してみたら、
何度目かのチャレンジで、ついにそれは来た。
エンジン音がいきなり高くなり、速度はあっさり496km/h。
ステアリングも自由自在だ。
製造から20年、まったく電気の流れたことのなかった ROM
カセットの回路に、今ようやく電気が流れている…。
ひとしきり感激しながら全5コースを走り抜けた。
その後、3コースでの実現にもう一度チャレンジしてみることにした。
念のため、3コースでF1ターボを実現することの意義についてふれておく。
「F1レース」というソフトには全10コースが用意されていて、
一番かんたんな「SKILL 1」では1〜5コース、中くらいの「SKILL
2」では3〜7コース、最も難しい「SKILL
3」では6〜10コースと、各5コースを走ることになる。
各スキルとも、あるコースを制限時間内に2周できれば次コースに進み、
最後のコース(それぞれ5、7、
10コース)では時間切れになるまで何周走れるかを競う。
さっきは1コースでF1ターボを実現したわけだが、これだと「SKILL
1」に含まれる全5コースしかF1ターボで走れない。
「SKILL 2」を選択して3コースでF1ターボを実現すれば、
難度の高い6コース、7コースもF1ターボで走ることができるようになる。
わざわざ3コースでF1ターボを実現しようとした意味はそこにある。
3コースでのF1ターボ実現は困難を極めた。
私はもっぱら画面を見ているだけだったが、
直線部分に入る際の初速度、他車の配置、微妙なステアリングの調整など、
どの要素が欠けても実現はできず、
「レベルX」のパンフレットの表現を借りるならば、
パッドを投げつけたくなるような気分だった。
しかし、ついにその時は来た。
まさにぎりぎりのタイミングで416km/hに乗ったのだ。
1コースでの「初ターボ」にも感激したが、このときの感動もまた深かった。
そして、いつもは完走が精いっぱいの6コースや7コースを、
F1ターボでゆうゆうと走ることができたのである。
ここまで来て、私はふと気付いた。SKILL 1 の最初である1コース、SKILL 2 の最初である3コースでF1ターボが可能ならば、SKILL 3 の最初である6コースでも可能なのではないか?と。 F1ターボという裏技の設定意図が 「正規の方法ではどうしても最後のコースまでたどり着けない人のためのサービス」 であるとするならば、6コースでもF1ターボは出るはずだ。
そういう視点であらためて6コースを走ってみると、
この推測を裏付けるような事実を発見した。
6コースには中程度の長さの直線部分が2本あり、
これらが短いカーブで結ばれているのだが、
最初の直線で右側車線に入っておくと、ハンドルに触れることなく、
自動的に次の直線の左側車線に入り、そのまま直進できる。
つまり、2本の直線+間の曲線を1本の長い直線コースとして利用できるのだ。
具体的には図1を見てほしい。
右カーブでハンドルを切らないと車は徐々に道路の左側へ行く(図1の上の絵)。
このままハンドルを切らずにいるとカーブは終わるが、
いつの間にか車は図1の下の絵の状態になっているのだ。
実際の自動車ではこんなことはあり得ないのだが、
「ハンドルが中立の位置だと車は常に画面の中央付近を向く」、
より詳しくいうと「ある瞬間における車の向きは、
その瞬間のハンドルの向きにのみ依存し、
過去のハンドルの向きには依存しない」というこのゲームに固有の性質により、
このような現象が起こる。
あとはひたすらチャレンジするだけなのだが、 結論からいうと、何度やっても実現はできなかった。 414km/hまでは何度か出せたので、 おそらく好条件がいくつか重なれば416km/hも不可能ではないと思うのだが、 3コースよりさらに難しそうだ。 まじめに走って10コースを見ることのほうがおそらく容易だろう。
6コースでの練習に疲れてしまった弟は、息抜きに1コースで遊ぶようになった。
最初は1コースでF1ターボを実現しても十分に感動したものだが、
何度かやっているうちに、ある程度の確率でコンスタントに実現が可能となり、
感動どころか「なぜ今まで、
こんなかんたんなことができなかったのか」と思うようになってきた。
そしてついに、不器用な私が手を出した。
見る限り、私にもできそうなほど容易なのである。
実際に操作してみると「やっぱり難しいかも」と一時は思ったが、
それでも10回か20回やっているうち、試みはあっけなく成功した。
その後、ひまができると何度かチャレンジしたが、
弟ほどではないにせよ、比較的容易にこの技を成功させることができるようになった。
私ができるのだから、たぶん多くの人にできるだろう。
以下に要点を記しておくので、カセットを持っていてF1ターボ未経験の人、
ぜひ一度やってみてほしい。新たな境地が開けるはずだ。
なお、直線部のインコースを走行時に内輪を路肩に半分〜全部乗せると、
インコースを走る他車と接触しないうえにコースアウト扱いにもならず、
極めて有利だ(図3)。
直線区間が終わったあとの「曲線を直線として使う区間」が若干延びるというのもいい。
ただ、高速走行時にこの状態を作り出すのは至難の業である。
少しでも右に行きすぎるとバリバリという音がしてコースアウトし、
速度は急激に落ちてしまう。
3コースも基本的な方法は同じだが、直線部の終端で待つカーブが非常に鋭いため、 カーブ部分を直線として利用するのはほぼ不可能で、 無理にインコースを走ってもあまり得はしない。
むしろ、 3コースでは車線のちょうど真ん中(センターライン上)を走るのがいいようだ。 というのは、直線部分で自車がちょうどセンターライン上に乗ると、 なぜか左右どちらの他車とも接触しないようになるから(図4)。 一発でセンターライン上に乗せるのは厳しいが、 かりに乗せてしまえば以後のハンドル操作(減速をともなう)はいっさい不要となり、 416km/h達成に大きく近づく。