最長片道きっぷの経路を求める
[付録2-3] 2004年3月版(質問編九州版)

このページのあらまし

 最長片道きっぷには、実はいくつかの「流儀」があります。 また、JRの運送約款の解釈のしかたによって最長経路が変わることもあります。
 そうした流儀や解釈の差が「経路の差」として顕著に表れる九州について、 質問や誤解が多かったので、事情をこのページにまとめました。 以下では複数の経路を紹介しますが、「正解は1つだけで、残りは誤り」ではなく、 「異なる流儀・解釈のもとで、 どれも最長と呼べる」ということを理解してください。


目次


営業キロか運賃計算キロか

 昔から意見が割れてきたのが、最長片道きっぷは「営業キロ最長の乗車券」なのか、 「運賃計算キロ最長の乗車券」なのか、という点です。

 用語の詳しい解説や正確な定義は「[付録2-2] 2004年3月版(質問編)」に書いたので省略し、 ここでは大ざっぱな(そして、やや不正確な)表現で説明します。
 JRでは、 利用者の多い路線(幹線)とそうでない路線(地方交通線)の運賃に差をつけるため、 利用者の少ない地方交通線の運賃を「実際の距離×1.1」で計算しています。 たとえば、地方交通線に100km乗車したときの運賃は、 幹線に110km乗車したときの運賃に相当します。 この、実際の距離「100km」にあたるのが「営業キロ」、 1.1倍に割り増しした距離「110km」にあたるのが「運賃計算キロ」です。

 では、最長片道きっぷでは、経路全体の「営業キロ」を最長にすべきなのか?  あるいは「運賃計算キロ」を最長にすべきなのか?  そういう疑問が必然的にわいてきます。 「営業キロ最長経路=運賃計算キロ最長経路」なら話は早いのですが、 実際に計算してみると、 「営業キロ最長経路」と「運賃計算キロ最長経路」は異なるのです。
 「営業キロ最長派」に言わせれば、 「最長片道きっぷは『最長の旅行』ができるところに意味がある、 だから実際の距離にほぼ等しい営業キロを最長にすべきだ」ということになります。 いっぽう「運賃計算キロ最長派」は、 「あくまで片道乗車券あっての経路なのだから、 『運賃が最も高い乗車券』を買える経路を選ぶのが妥当」と主張します。 もっと別の主張もあるかもしれませんが、ともかく、 どちらも一理あるといえるでしょう。

 厳密にいうと、いくつかの特例が存在するため、 「実際に旅行する経路」と「運賃計算時に距離を測る経路 (以下「運賃計算経路」と略記; 「運賃計算キロ」と混同しないよう注意)」とは異なります。 また、同じ乗車券を買ったとしても、距離の異なる複数の経路を選べる場合があります。
 このため、「運賃計算経路の営業キロを最長にした片道乗車券」が常に 「実際に乗れる距離が最長の片道乗車券」になるわけではないのですが、 話が発散するので、ここでは「営業キロ最長派」の求めるものが 「運賃計算経路の営業キロ最長」であることにしておきます。


「九州内の山陽新幹線」問題

 次に九州固有の問題として、山陽新幹線と並行在来線を同時利用できるかどうか、 という問題があります。
 以下に記すように問題は非常に複雑ですが、 結論だけ言えば、現状では「同時利用」が可能かどうかは判断しかねます
 そして、もし「同時利用」が可能だとすれば、 「同時利用」が不可能な場合にくらべ、長い経路の片道乗車券を買うことができます。

歴史的経緯

 山陽新幹線の新下関・小倉・博多間は、 1996年1月まで「並行する在来線と常に同一の線路として扱う」ことになっていました。 つまり新幹線と在来線を区別していなかったわけです。 この時点では、「新幹線」と「それに並行する在来線」の両方を利用すると、 (同じ線路を2度通ることになるので)片道乗車券にならないことは明らかでした。
 しかし1996年1月、JR九州が運賃を改定しました。 このとき、山陽新幹線は(JR西日本の所属なので)運賃据え置きなのに対し、 並行在来線は(下関以西がJR九州なので)運賃改定となったため、 新幹線と在来線に運賃の差が生じました。 今までどおり「常に同一の線路として扱」っていたのでは、 この運賃の差を説明できません。
 そこで、1996年1月以降は、この区間の新幹線と並行在来線は「原則としては別線、 ただし『片道乗車券を買えるかどうか判断する場面』では例外的に同一線」 という変則的な扱いをすることになりました。
 ところが、この方針を運送約款である「旅客営業規則」に反映させる際、 表現方法に不備があったため、思わぬ解釈が可能になってしまいました。

「直接」でなければいいのか

 「旅客営業規則」の第68条第4項第3号を読むと、 新下関・小倉間の新幹線と同区間の並行在来線とを 「新下関または小倉で」「相互に直接」乗り継ぐときには、 乗り継ぎ駅で運賃計算を打ち切る、と定められています(小倉・博多間も同様)。
 なお、同じ第68条第4項の前段(第1号・第2号)には、 それぞれ「環状線一周となる場合には一周となる駅で打ち切り」 「復乗(折り返し)になる場合には折り返し駅で打ち切り」という、 片道きっぷの成立条件の大原則が書いてあります。 これが後に解釈上のカギになります。
 閑話休題、世の中には目ざとい人がいるもので、68条4項3号を読んで「じゃあ、 直接乗り継がなければいいんじゃないか」と思いついてしまった人がいるわけです。 わざわざ「新下関・小倉で」「相互に直接」乗り継ぐときには打ち切ると書いてあるわけですから、 「そうでないときには打ち切らなくてよい」と解釈することができます。 (「表」が真でも「裏」は必ずしも真ではないぞ、 と気付いた人は鋭いのですが、これにはさらに続きがあります。)
 この解釈にしたがえば、 「新幹線→並行しない在来線→並行在来線」という経路ならば、 新幹線と並行在来線を「新下関・小倉・博多以外で」「間接的に」乗り継ぐので、 片道乗車券を発行できることになります。

 これに対する反論もあります。「原則別線、 ただし片道乗車券の成立条件を考えるときは同一線」 という前述の変則的な扱いが記されているのは旅客営業規則の第16条の3ですが、 ここを読むと、 例外的に同一線扱いをするのは「第68条第4項に規定する…計算方」と書いてあります。 これが「第68条第4項第3号」ではなく「第68条第4項」となっているので、 68条4項の1・2号においても「例外的に同一線扱い」をするのだと読めます。 だとすると、 68条4項3号をすり抜ける「直接でない乗り継ぎ」も1号・2号に引っかかり、 結局は(1996年1月以前と同様に)片道乗車券にならない、というのです。

 ところが、この反論に対する反論もあります。 「直接でない乗り継ぎ」を68条4項の1号・2号で蹴落とせるならば、 「直接の乗り継ぎ」も同様に蹴落とせるはずであり、 3号の存在意義がないことになる、というものです。そのうえで、 新下関・博多間だけにフォーカスした第3号をわざわざ新設したのだから、 新下関・博多間に関しては1号・2号より3号が優先となるはずだ、 だから「直接乗り継ぐときは打ち切る」の「裏」にあたる命題、 「直接乗り継がないときは打ち切らない」も真になると解釈できる、 というのです。
 以下、反論の反論の反論もあるわけですが、どちらの言い分にも一理あり、 容易に判断できないことは分かってもらえたでしょう。

 さて、当のJRはどう考えているのかというと、 尋ねるところによって回答がまちまちで、今のところ統一されていないようです。 「間接的に乗り継ぐ」ような経路が片道乗車券として発行されたこともあれば、 「これは片道になりません」と断られたこともあります。 (ただし、2000年夏以来、自分で直接調査をしたことはありません。)
 本来、JRは運賃改定時に「片道乗車券を買える(買えない)条件」 まで変えるつもりはなかったはずで、 もし見解が統一されるとすれば、当初の意図を尊重する方向、 すなわち「同時利用不可」ということになるのではないかと私は考えています。


折り返しを許す?許さない?

 そして最後、上記の「(間接乗り継ぎ時の)新在同時利用」が可だった場合のみ、 「区間外乗車を許すか否か」という流儀の差で最長経路が変わってきます。
 「新在同時利用」を許した場合、 九州内の最長経路は「…→小倉−新幹線→博多→吉塚→長者原→…」となり、 博多駅で新幹線と並行在来線を「直接」乗り継ぐものになります。 さっき「直接でなければいい(かもしれない)」とさんざん言ってきたので、 思わず「ダメじゃん!」と言いたくなりますが、 実はこの乗り継ぎは例外的に片道乗車券を買えるのです。
 ところが、この経路の「博多→吉塚」の部分が「折り返し」に当たるとして、 この経路を嫌う人が少なからずいます。この経路でも片道乗車券は買えますが、 「一度も折り返さないで距離をかせぐのが身上の最長片道きっぷなのに、 実際に乗ると途中で折り返さない限りゴールに着けないなんて、 いくら特例があっても許せない」というのです。 こういう人は「折り返し」のない中で最長の経路を採用するので、 ここでまた、最長片道きっぷにバリエーションが1つできてしまいます。

区間外乗車の特例

小倉・吉塚・博多・長者原の位置関係

 博多・吉塚間はわずか1.8km、吉塚駅に停車する特急が少ないこともあり、 小倉方面から長者原方面へ行く場合、新幹線、在来線のどちらを使うにしても、 「小倉→博多→長者原」という経路をとるのが一般的です。
 しかし小倉・博多間で新幹線を利用する場合、 原則どおりなら、この経路の片道乗車券は買えません。 博多駅で「新幹線」と「それに並行する在来線」を直接乗り継いでいるからです。
 歴史的経緯や在来線との関係など(詳細は省略)により、 この区間には特例が設定されています。 その特例とは、小倉方面から新幹線で博多に来て、博多で改札を出ず、 かつ吉塚から長者原方面へ抜ける場合に限り、 片道乗車券を発売するというものです。 この場合、吉塚・博多間の往復分の営業キロは運賃計算から除きます。 新幹線にも「仮想的な吉塚駅」があって、 「小倉−(新幹線)→吉塚→長者原」という経路で運賃を計算できる、 というイメージです。また、運賃計算から除外される 「(新幹線上の仮想的な)吉塚・博多・(在来線に実在する)吉塚」 間はタダで乗車できることになります。
 前節に「新幹線と並行在来線を間接的に乗り継ぐ場合には、 片道乗車券が買えるかどうか、解釈が一定していない」と書きましたが、 この「吉塚・博多間の特例」には解釈の揺れはなく、確実に適用されます。

折り返しは邪道?

 新幹線と並行在来線を「間接的になら乗り継げる」という立場をとった場合、 最長経路は「吉塚・博多間の特例」を見事に生かしたものになります。 すなわち「…→小倉−(新幹線)→博多→吉塚→長者原→香椎→…」という経路です。
 ところが「この経路は気にくわない」と主張する人が出てきました。 この経路では吉塚・博多間が実質的な「折り返し」にあたり、 片道きっぷの精神になじまないというのです。 こういう人たちは「折り返さないと使えない片道きっぷなんてダメだ」というので、 「吉塚・博多間の特例が適用されない」という制約のもとで計算した最長経路を採用しています。 しかし当然、 その経路は「吉塚・博多間の特例」を使ったものよりも距離が短くなります。
 ここまで読んできた人には分かると思いますが、 これはJRの規則の問題というより、旅行者の気持ちの問題です。 私は「物理的に別線、論理的にも『原則別線』、 片道乗車券も発売される経路に何の問題があるのか、 未だにあいまいな『間接乗り継ぎの是非』のほうがよっぽど問題だ」と思うのですが、 気持ちの問題なのでどちらが正しいとも言えません。


九州内、4つのバリエーション

 以上のように、最長経路を考える際には3つの「異なる流儀」があります。実は、 「並行在来線を持つ新幹線は(単に在来線を複々線化したものだと考えて)まったく利用しない」など、 さらに別の流儀もあるようですが、きりがないのでここでは取り上げません。
 では、それぞれの流儀にしたがうと、具体的にどのような経路になるのか?  多くの人が最も気にするであろうこの点を、以下にまとめてみました。 表中、特記のないものは「営業キロ派」「運賃計算キロ派」に共通です

流儀ごとの最長経路一覧
間接乗り継ぎに限り
山陽新幹線と並行在来線の
同時利用を許す
山陽新幹線と並行在来線の
同時利用を許さない
吉塚・博多間「復乗」を許す 経路1 経路4
吉塚・博多間「復乗」を許さない 営業キロ派:経路2
運賃計算キロ派:経路3

 経路1〜経路4の具体的な内容は以下のとおりです(距離は小倉以西を記載)。 肥前山口→肥前山口のループ部分は、以下では左回りとしていますが、 右回りも可能です。また、図からはみ出ている南九州は全経路とも同一です。 図の小倉以東については在来線経由としていますが、 新幹線経由も可能です(実際の距離は新幹線経由のほうが長い)。

経路1:
  小倉 → 肥前山口
  経由:新幹線,[博多],鹿児島1,篠栗,香椎,鹿児島1,日豊,吉都,肥薩,
     日豊,鹿児島2,[(鹿)川内],九州新幹線,鹿児島1,久大,
     日田彦山,後藤寺,筑豊,[原田],鹿児島1,長崎,佐世保,大村,長崎
  営業キロ: 1224.2km   運賃計算キロ: 1251.4km

経路2:
  小倉 → 肥前山口
  経由:新幹線,[博多],鹿児島1,[原田],筑豊,篠栗,鹿児島1,[折尾],
     筑豊,後藤寺,日田彦山,日豊,吉都,肥薩,日豊,鹿児島2,
     [(鹿)川内],九州新幹線,鹿児島1,長崎,佐世保,大村,長崎
  営業キロ: 1211.3km   運賃計算キロ: 1235.1km

経路3:
  小倉 → 肥前山口
  経由:新幹線,[博多],鹿児島1,[原田],筑豊,篠栗,鹿児島1,日豊,
     日田彦山,久大,日豊,吉都,肥薩,日豊,鹿児島2,[(鹿)川内],
     九州新幹線,鹿児島1,長崎,佐世保,大村,長崎
  営業キロ: 1209.1km   運賃計算キロ: 1243.1km
  ※ 「経路2」と異なるのは「折尾→大分」

経路4:
  小倉 → 肥前山口
  経由:鹿児島1,日豊,吉都,肥薩,日豊,鹿児島2,[(鹿)川内],
     九州新幹線,鹿児島1,久大,日田彦山,後藤寺,筑豊,[折尾],
     鹿児島1,篠栗,筑豊,[原田],鹿児島1,長崎,佐世保,大村,長崎
  営業キロ: 1180.1km   運賃計算キロ: 1208.7km
経路1〜4


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最終更新: 2004年10月 2日
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