初めて潜り込んだ指定校は、古風だった。
4月16日。技能試験合格から実に約40日を経過した今日、 ようやく取得時講習を受けられることになった。
念のため取得時講習についてもう一度書いておく
(ずっと読んでいる人にはしつこくて失礼)。
取得時講習はほとんどの種類の免許取得時に受けなければならない講習で、
技能試験に合格したあと、任意の講習実施箇所(指定自動車学校)に出向いて受ける。
ただ、最初から指定自動車学校に通って免許を取る人は、
カリキュラムの中にこれと同等の内容が含まれているので受講は不要であり、
実際にこの講習を受けたことのある人は少ないはずだ。
あと、この講習にはちょっとした経済的問題がある。
ごく一部の自動車学校(特定届出校のみ?)は、
技能試験合格前の人を対象に同等の教習(特定届出教習)を実施していて、
あらかじめこれを受けてから技能試験に合格すると免許証が即日交付されるのだが、
「技能試験合格後」の取得時講習は受講料がどこでも一定なのに対し、
「技能試験合格前」の特定届出教習はあくまで自動車学校独自の「教習」であるため、
自動車学校によって価格が異なり、
取得時講習と比較して一般に高い(取得時講習の2倍程度)。
こういう事情があったので、二俣川自動車学校を仮免許取得後早々に去り
(強制ではないがデフォルトで特定届出教習を受けることになっているから)、
本免許の技能試験は後輩その他の助けを借りて合格したのだった。
そして今日、指定校で取得時講習を受けることになったものである。
今回、取得時講習を受ける場所は、平塚市にある「米善自動車学校」だ。
横浜市在住で、市内にいくつも指定校があるにもかかわらず、
わざわざ平塚まで受けにいくことにしたのには理由がいろいろあるのだが、
最も大きな理由は以前に書いたとおり「取得時講習が1日で済むこと」である。
多くの自動車学校では、
取得時講習には2日(場合によっては3日)かかることになっており、それゆえ、
より高価な特定届出教習に「ウチなら1日で済みます」という宣伝を許しているのだが、
探せば見つかるもので、この米善自動車学校なら1日(正確には12:50〜19:55、
約7時間)で取得時講習を修了できるのだ。
取得時講習なので、もちろん共通価格13400円で受講できる。
また、予約の入りやすさについては、
この自動車学校が特にいいわけではなかったが(何せ申し込みから40日も待たされた)、
3月上旬に怒涛の電話攻勢をかけたときに「3月中に受験可能」
と回答してきた学校は1つもなかったから、
他と比較してそれほどひどいわけでもない。
そして、最後の決め手が「学校の名前」。
「米善」なんて、いかにも時代劇に出てきそうな名前で、
どういう由来があるのだろうと思わず調べたくなってしまう(地元の醸造会社のようだ;
すぐ近くに工場がある)。
単に地名を名乗るだけの学校、あるいは「ナントカドライビングスクール」
などと気取った名前をつけた学校が多いところ、
「米善自動車学校」という、ある種いさぎよい命名に少々感じ入り、
最終的にここにしようと決めたのだった。我ながら変な理由だと思う。
あらかじめ、申し込みのために学校を1回訪問したので、
受講日当日は迷うことなく「登校」。
そうそう、学校の場所は平塚駅南口から徒歩10分足らずであり、
不便な場所の多い自動車学校の中にあって、交通の便もすこぶるいいのだった。
この距離でもいちおう駅からのスクールバスがあるのだが、
バスを待つくらいなら歩いたほうが早い。
12時30分集合だというので5分ぐらい前に行くと、
あらかじめ試験場で買っておいた証紙を回収され、あっさり受付は終了。
待合室に通された。
この待合室が実に古風で、「米善」という名前に実によくマッチしており、
これだけで心が和んでしまった。
あ、そうそう、証紙以外の費用はまったく不要だった。以前、
試験場で「テキスト代として別に3000円ぐらいかかります」と聞いた気がするのだが、
少なくともこの学校では13400円だけでOK。
本科生だと、高速教習の際の通行料金250円は自己負担のようだが、
取得時講習ではこの料金すら不要だった。
12時50分、講習開始。講習室という小さな教室に通された。 今日、私といっしょに受講するのは…え? 私だけ? 驚きながらしばらく待っていたら、 少々遅刻気味でもう1人(ほぼ同年齢)がやってきたが、これでおしまい。 つまり受講者は総勢2名である。これで1カ月以上待たされたのだから、 この学校で取得時講習を受けるのはかなり厳しいかもしれない。 もちろん、前回は大盛況で今回は定員割れということも考えられるが。
最初に、応急救護以外を担当する先生がやってきた。 案の定、先生は私のことを「免許を前にとったけど、 取り消しを食らって再度取得」の人だと思っていたようだが、 実際にはまったく初めての免許取得であり、 「そんなやつもいるのか」と少々驚いていたようす。 試験場まで遠い平塚では「一発受験」はあまり行われないのか。 ちなみにもう1人は地元・平塚の人で、事故を起こして免許取消になったのだそうで。
手続きのあと、いきなり路上に出て「高速講習」が始まる。
西湘バイパスを走ることは知っていたが(予約時に「荒天時、
西湘バイパスが通行止になったら講習を延期します」という紙を渡されたので)、
聞いてびっくり、なんと全区間を走破するのだそうだ。
起点は平塚だからいいとして、終点は小田原の先、早川である。
えらく遠いところまで行くのだなぁと、にわかにわくわくしてきた。
乗車前の点検を終え、運転に自信のない私が「先攻」で教習所を出る。
場内をぐるぐる回っている間は1カ月ぶりの運転に少々とまどい気味だったが、
公道に出たあたりで感覚が戻ってきた。言われるままに市街地を走る。
方向もよく分からないままにしばらく走ったのち、いよいよ西湘バイパスに乗る。
高速道路で難しいのは本線への合流部分だが、
最初に入るところは「始発インター」なので合流はなく、
「はい、60km/h出して」と言われてアクセルを踏めばそれでいい。
西湘バイパスは東側が無料、西側が有料になっていて、
西区間に入ったところで制限速度は70km/hになった。
AT車なので、アクセルを踏めば単純にスピードが出て走る。
追い抜きをするわけではないので、左側の車線を淡々と走ればいい。
これだけなら運転初心者の私でも楽勝だ。
海を見ながらしばらく走り、国府津のパーキングエリアでひと休み。
といってもこれは休憩のためではなく、本線からの離脱、
および本線への合流を練習するのが目的。
離脱のほうは追突しないように後ろに気をつければいいが(といっても、
後ろまで目がいかないのが初心運転者の悲しさ)、合流のほうはかなり難しい。
というのは、ここのパーキングエリアは加速車線が皆無で、
いきなり本線の速度に合わせないといけないから。
しかも、今日は低速作業車が出口のところにいて、
通常時よりさらに加速できる部分が短い。
どうなることかと思ったが、本線の通行量が十分に少なかったので、
のんびり本線に出て、おもむろに加速した。
しかし教習車の日産クルー、さすがに加速悪いな。
阪神5500系に負けるんじゃないかと思うほどだ。
その後、料金所を経て(意外にすんなり右に寄ることができた)、
しばらく走るともう終点の早川。ちょっと複雑な構造のインターだが、
案内表示にしたがって走るとちゃんと出口に着いた。
ランプウェイでの減速は、バカ正直に標識にしたがって急減速するのではなく、
後続車の動きに注意しながら徐々に落としたほうがいい、というアドバイス。
このへんは実際に追突されそうにならないと分からないな。
早川インターを出て港のほうをぐるっと半周。
高速を出てしばらくは速度感覚が狂うというが、たしかに分かる気がした。
いつもは40km/hも出すとけっこう速いなと思うのだが、
今は気がついたら40km/hを超えている感じ。
裏道で運転を交代すると、あとは後部座席に乗っているだけでいい。
途中、料金所を過ぎてすぐのパーキングエリアでいったん休憩してから平塚に戻った。
西湘バイパスを出てからしばらくは渋滞していたが、ここ、追突の名所らしい。
高速を出てすぐに渋滞していたら、たしかに速度感覚が狂っているから危なそう。
「後ろの車、沼津ナンバー(=地元じゃない)
だから気をつけたほうがいいよ」というアドバイスに思わず納得。
教習所に戻り、次の時間は危険予知。ビデオを見ながらいろいろ考える。
見せられたビデオ、実際に事故寸前の映像を撮っていて非常に迫力があった。
綿密な打ち合わせのうえ、スタントマンみたいな人が乗って撮っているのだろうか。
通して見ると短いビデオだが、かなり撮影には時間がかかっていると見た。
あと、映像はかなり古いようで、映っている車やバスが妙に懐かしい車種なので、
その意味でもおもしろかった。特に、古くさい国際興業バスが映ったのは感動もの。
(でも岩手県交通なら今でも平気で走っていそう…)
17時前に講義は終わった。
ここまでで「普通車講習」は終わりで、あとは「応急救護講習」となる。
ここから先は本科生と合同でやるようで、
17時過ぎに教室に行ってみたら、本科生が5名来ていた。
スポーツウェアを着た先生が来て講義開始。
ビデオを見たあと、最初にやったのが三角巾のたたみ方。
三角巾を空中で細長い包帯状にするのだが、これがけっこう難しい。
「地面に置いてたたむと破傷風菌なんかがつくから」
ということで考案された方法のようだが、
きちんとしすぎると途中で行き詰まる気がするし、
あまりにもアバウトにやると包帯状にならないし、困ったものだ。
実際問題として、翌日にはもう忘れているし。
その後、定番の心肺蘇生と人工呼吸。専用の人形があるのは知っていたが、
ちゃんとできているかどうかを評価するための測定器があるとは思わなかった。人形と
RS-232C か何かで接続し、マッサージの深さやら人工呼吸の量やらを計測、
印字して結果を評価してしまうというすぐれものである。
あと、人工呼吸は「そのまま」やるのかと思っていたが、
使い捨ての専用器具があるのだった。「キューマスク」というもので、
いってみれば「口」というメス端子2つをつなぐためのオス・オス端子みたいなもの。
これで感染症を防ごうという話らしいが、実際、
事故現場に居合わせたら感染症どころじゃないよなぁ。
ともかく、これを使ってやってみると、
鼻をつままないと息を吹き込んでも肺に入っていかないということがよく分かった。
しかしこれも、実際の事故現場では忘れそうだよなぁ。
一生懸命に息を吹き込んでも、全部鼻から出てくるの。たぶん気付かないと思う。
何回か練習をやって疲れたところで「最終試験」があり、
機械に「これはダメ」という判定を食らった部分をもう一度やる。
もともと肺活量があまりない私にとって、人工呼吸はかなり疲れる作業だ。
講習開始から7時間、へとへとになったところでようやく終わり。もう外は真っ暗だ。
事務所に行くと、準備のいいことに机上に「修了証明書」が並んでいた。 住所や氏名が正しいことを確認して受け取り、今日の講習は無事終了。 これでついに、免許取得のための全要件をクリアしたことになる。 あぁ、これで数日後に免許証を手にしてしまうのか…と複雑な思いで、 古風な教習所をあとにした。
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