節約の発想 近距離編 Part 5
鉄道各社の得意分野を知る

 一部の節を「折りたたむ」機構を試験的に導入しています。 詳細については「折りたたみ機構の試験導入について」をお読みください。

Index

  1. 総論:交通費を安くするには
  2. まず地図を見よ
  3. 交通費は「足で稼ぐ」
  4. 路線バスを使いこなす
  5. 鉄道各社の得意分野を知る

 各鉄道会社の「運賃の上がり方」にはそれぞれ特徴があります。 特に、JRと大手私鉄では、 乗車距離が長くなったときの運賃の上がり方に顕著な差があり、 この差を把握しておくことは「節約の発想」上、かなり重要であるといえます。
 また、JRでは「途中で降りたほうが運賃が安い」ということがしばしばありますが、 このことも運賃の上がり方と関係しているため、このページで取り上げます。


JRと私鉄、どっちが安い?

 同じ距離(たとえば10km)を移動するとき、 JRと小田急ではどちらが安いでしょう?と聞かれて、 即座に答えられる人は少ないでしょう。
 この節では、「同じ距離を別の会社で移動すると運賃はどうなるか?」を比較して、 各社の運賃の特徴、もっと言えば「各社の得意分野」を把握します。

いきなり結論:15〜20kmが境界線

 といっても、まじめに調べるとけっこうややこしいので、結論から書きます。
 首都圏の都心外縁部(大宮、横浜、千葉、 八王子付近)でJRと大手私鉄の運賃を比較すると、 距離が同じ場合、おおむね15〜20kmまではJRが安く、 それより長距離では大手私鉄が安いというのが一般的です。 関西でも、京阪神周辺では似たような傾向にあります。
 つまり、JRと大手私鉄のどちらかを選べるような場合、 JRに乗る距離はなるべく15〜20km以下、 大手私鉄に乗る距離はなるべく15〜20km以上にすると安くつくということです。
 実際には「JRを使ったほうが近道になるので、JRの乗車距離が20kmを超えても、 結局はJRのほうが安い」といったことが多々あります。 しかし、JRの20km以上の運賃は相対的に割高である、 ということは知っておいて損のない事実です。

運賃が距離に比例するJR、比例しない大手私鉄

 このように、15〜20kmを境に両者に差が生じる主な理由は、 JRの運賃が距離に比例しているからです。

JRと私鉄の運賃比較グラフ(概念図)

 鉄道の運賃は、どんなに短い距離でも150円程度の「初乗り運賃」がかかる一方、 いったん乗ってしまえば、 多少遠くまで乗ってもそれほど運賃は上がらない…こんなふうに思っている人が多いと思います。 実際、多くの私鉄ではこのような運賃の決め方になっています。 言い換えれば、長く乗れば乗るほど、1kmあたりの運賃は安くなっていきます。
 しかしJRの場合、 距離のわりに割高な「初乗り運賃」があるのは他社と同じですが、 10kmを超えると、以後はずっと(正確には乗車距離300kmまで)運賃が距離に比例します。 つまり、「50km乗ったときの運賃」は「25km乗ったときの運賃」の2倍で、 長く乗ったからといって割安になることはありません。
 このような差があるため、同じ距離でJRと大手私鉄の運賃を比較した場合、 距離が長くなればなるほど、大手私鉄のほうが安くなるのが一般的です。 一方、15〜20kmより短い距離では、大手私鉄のほうが運賃の上がり方が急なので、 多くの場合にJRのほうが安くつくようです。

実例その1:JR vs 京急  

 上記の一般論を、実例で確かめてみましょう。
 まず最初に、品川〜横浜〜久里浜間で競合しているJRと京急の運賃を比較してみます。 横浜より南ではJRと京急の線路が大きく離れていて、 横須賀や久里浜へは京急のほうがだいぶ近道なのですが、 品川から横浜までは両路線ともほとんど同距離です。

品川から各駅までの運賃比較
蒲田 川崎 鶴見 横浜 横須賀 久里浜
JR 距離 7.6 11.4 14.9 22.0 55.6 63.6
運賃 160 210 210 280
(380)
890 890
(1050)
京急 距離 8.0 11.8 15.3 22.2 49.9 56.8
運賃 190 220 270 290 620 760

 JRの運賃のうちカッコ内のものは「値引き前の運賃」です。 品川〜横浜・久里浜のJRの運賃は、 京急との競合があるので特別に安く設定されているのですが、 かりにそういう措置がなければカッコ内の運賃になる、ということです。
 比較してみると、15km圏の鶴見まではJRのほうが概して安いのですが、 20kmを超えた途端に逆転し、 「品川〜横浜」については特別な値引きで何とか優位を保っています。 その後は差が拡大し、「品川〜久里浜」では、 値引きしてもなお京急より高くなっています。 (京急のほうが距離が短いという理由もありますが、それだけではありません。)

実例その2:JR vs 東京メトロ  

 次に、JRと東京メトロを比較します。 出発地点はJRの高円寺とし、1駅先の中野までは同一ルート。 中野からJRと東京メトロに分かれて東へ進みます。 「2社を乗り継げば高くつく」というのは以前に書いたとおりで、 あえて東京メトロに不利な条件での比較といえます。

高円寺から各駅までの運賃比較
高田馬場 飯田橋 東京 新木場 西船橋
JR 距離 8.5 11.8 16.1 23.5 33.6
運賃 160 210 290 380 540
中野までJR
中野から東京メトロ
距離 5.3 9.4 12.7 21.3 32.3
運賃 270
(290)
320 360 400 430

 東京メトロの運賃のうちカッコ内のものは「割引前の運賃」です。 高円寺〜高田馬場間には乗継割引が設定されているのですが、 かりにこの割引がなければカッコ内の運賃になる、ということです。
 東京メトロには「2社利用」のハンディキャップがあるため、 20kmを超えたあたりでもなお、JR1社を利用したほうが有利です。 しかしこれも30kmを超えると限界で、2社を乗り継ぐにもかかわらず、 東京メトロを利用したほうが安くつきます。 運賃の上がり方に注目すると、JRがコンスタントに上がっているのに対し、 JR+東京メトロは「最初は高いが、 あとはほとんど上がらない」ということが分かるでしょう。

実例その3:JR vs 阪神  

 関西の人のために、JRと阪神を比較してみます。 出発地点は大阪(梅田)とし、神戸へ向かいます。

大阪(梅田)から各駅までの運賃比較
尼崎 甲子園口
甲子園
西宮 芦屋 住吉 三ノ宮
三宮
神戸
高速神戸
JR 距離 7.7 12.9 15.4 19.2 23.7 30.6 33.1
運賃 170 210 290 290 380 390
(540)
390
(540)
阪神
元町から神戸高速
距離 8.9 14.1 16.7 20.2 24.6 31.2 33.6
運賃 230 260 260 280 290 310 430

 JRの運賃のうちカッコ内のものは「値引き前の運賃」です。 大阪〜三ノ宮・神戸のJRの運賃は、 阪神・阪急との競合があるので特別に安く設定されているのですが、 かりにそういう措置がなければカッコ内の運賃になる、ということです。
 ここでも、15kmを境として鮮やかなまでにJRと阪神の逆転が起きています。 梅田から阪神で神戸に向かうと、元町から先が別会社(神戸高速鉄道)になり、 「2社またがり」となって運賃面では不利なのですが、 「特別な値引き」のおかげでかろうじてJRが優位に立っている状況で、 値引きなしなら、2社またがりでも阪神+神戸高速のほうが安いところです。

実例その4:横浜→中央林間  

 最後に、ちょっと特別な例として、「横浜→中央林間」を3パターンで比較します。

横浜〜中央林間の運賃比較
距離 運賃
横浜−(相鉄)→大和−(小田急)→中央林間 22.0km 400円
横浜−(JR)→長津田−(東急)→中央林間 25.6km 440円
横浜→自由が丘→二子玉川→中央林間(東急のみ) 43.4km 390円

 比較すると、大和経由が長津田経由より40円安くなっています。 横浜→長津田が約20kmで「JRが私鉄より高い領域」に足を踏み入れていること、 距離が少し長いことから、妥当な結果といえます。
 しかし、最安は大和経由ではなく、自由が丘経由です。 最短経路の約2倍の距離であるにもかかわらず、 大和経由よりさらに10円安くなっています。 大和経由だと2社になるところ、自由が丘経由だと1社で済んでいる、 というのが安い要因の1つ。 そして、路線長の短い東急の場合、40km付近では運賃の上がり方がごく鈍く、 距離が増えてもほとんど運賃が高くならない、というのがもう1つの要因です。
 安いといっても最短経路より10円安いだけで、 実際に自由が丘経由で行く人はほとんどいないと思いますが、 大手私鉄1社に乗り続けると安上がり、ということがよく分かる例です。


最後?の手段「分割購入」

 交通費節約を語るとき、 裏技的な手法として必ず出てくるのが「乗車券の分割購入」です。 ある区間を移動するときに、途中の駅でいったん降りて乗車券を買い直すと、 最初から通しの乗車券を買うより安くつくことが、まれにあります。 電車で通勤している人なら、「1枚で買える定期券を、 わざわざ2枚に分けて買うと安くつく」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、 これも同じ現象です。
 話すと長くなるので、詳細については別のページ「乗車券の分割」にゆずりますが、 この現象はJR以外ではほとんど起きないということは覚えておくといいでしょう。

「JRだけ」の理由は?  

 なぜJRだけでこのような現象が起きやすいのか、 その最も大きな理由は、すでに述べたとおり、 JRの短距離運賃は距離に比例しているからです。 つまり、2倍の距離を移動すれば運賃も基本的には2倍ということで、 これは他の私鉄ではほとんど見られない特徴です。
 運賃が距離に完全に比例していれば問題はないのですが、 実際の運賃計算では「階段状の運賃設定」や「端数処理」を行うので、 「15kmなら210円なのに30kmでは450円」などといった、 「2倍の距離で運賃は2倍を超える」という現象が起こります。 つまり、通常サイズの2倍の「お徳用サイズ」を買ったら、 通常サイズ2個分よりわずかに高くつくことがあるわけです。

 このほかに、 JRでは私鉄との競合区間に限って割安な運賃を設定している場合があり、 これは時に、分割購入で大きな差額を生みます。

京急の「天空橋問題」  

 「分割購入」はJR以外ではほとんど得にならない、と書きましたが、 その例外として有名なのが、京急の羽田空港周辺です。 羽田空港駅を利用する場合、建設費が加算されて運賃が割高になるのですが、 羽田空港の1つ手前の駅「天空橋」からの利用だと例外的にこの運賃を回避できるため、 分割購入による節約が可能になっています。

天空橋で分割すると安くなる例

 具体的には、天空橋駅でいったん降りると、運賃が最低20円安くつきます
 羽田空港発着の場合、運賃には建設費として一律170円が加算されますが、 「天空橋・羽田空港間」に限ってはこの加算運賃がなく、両駅間の運賃は150円。 羽田空港へ直接行けば170円の加算運賃がかかる一方、 1つ手前の天空橋でいったん降りればこの170円から逃れられるので、 天空橋・羽田空港間の150円を別途払っても最低20円は安くなる計算です。
 差額は区間によって変わり、たとえば横浜〜羽田空港では、 天空橋で降りることにより50円安くなります。
 ただ、都営地下鉄から京急に直接乗り継ぐ人は要注意です。 都営地下鉄から京急に乗り継いで羽田空港へ行く場合、 乗継割引で運賃が60円安くなるためで、 天空橋で降りたのではこの割引を受けられません。

余った時間の活用法

 20円なり50円なりのためにわざわざいったん降りるのは面倒ですが、 「これから飛行機に乗るぞ」というときには一考の価値があります。
 飛行機に乗る際には、乗り遅れを警戒して早めの電車に乗る人が多いでしょう。 そんな人は、天空橋でいったん降りても十分に時間が余るはずです。 空港までは残り1駅なので、余裕を多少食いつぶしても安心です。

回数券の活用法

 ひんぱんに羽田空港を利用する人は、 天空橋発着の回数券をうまく利用する手もあります。
 京急の回数券はJRと同じ「区間指定式」です。 「自宅最寄り駅〜天空橋」の回数券を自宅の最寄り駅で、 「天空橋〜羽田空港」の回数券を羽田空港駅で買って、 この2種類の回数券を同時に使えば、 天空橋でわざわざ降りなくても、降りたのと同じ効果が得られます。



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最終更新: 2007年 8月 5日
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